新刊案内『総括:80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロック』

6月17日にBURRN!叢書シリーズの第30弾として『総括:80年代ヘヴィ・メタル/ハード・ロック』という書籍が出た。内容はまさしくそのタイトル通り80年代のHM/HRを総括するものなのだが、さすがにあの10年を一括りにしてまとめるとなるとライフワーク級の作業になってくるし、堅苦しく論じることはあの時代の空気感には似つかわしくない気もする。というわけで、この本は、僕自身とBURRN!編集部の奥野高久さんが対話形式であのディケイドを1年ずつ振り返り、再検証していくという構成によるものだ。

この、対話形式というのがポイントになっていると思う。1961年生まれの僕は、1984年の創刊当時から約8年にわたりBURRN!編集部に籍を置いてきたが、1972年生まれの奥野さんがそこに加わったのは、僕がMUSIC LIFE編集部に異動となり、編集長を務めるようになってから3年後にあたる1996年のこと。お互い同級生のような年齢だったなら「あの頃はこうだったよね」「そうそう」で終わってしまうのだが、11歳の年齢差があることで「あの頃のことは少年期の自分にはこう映りましたが」「いやいや、実はね」みたいなことになってくる。初めて観た洋楽のライヴが1976年8月のSWEETだった僕と、1986年11月のMETALLICAだった奥野さんとでは、当然ながら時代の感じ方、象徴的な出来事の見え方も違ってくる。

もちろんお互いのやり取りの中には、データや記録に基づいたこともふんだんに含まれているが、それ以上に双方が「体験的に味わってきたこと」が軸になっている。そこで、たとえばどういう流れを経ながら80年代を迎えたかということも意味を持つことになってくるわけで、僕がどんな70年代=少年期を過ごしてきたかについても触れている。すでにお読みいただいた方からは「途中から視点のあり方が、いちファンから編集者としてのものに変わっていくのがわかる」と指摘され、頷かされもした。確かに序盤は僕自身の自伝の序章のようでもあるし、60年代序盤に生まれた世代なりの記憶のサンプルともいえるかもしれない。そして当然ながら1984年以降の章には、当時のBURRN!編集部の裏事情的な話も出てくる。暴露的なものではないが、もう時効だろうと判断して明かした話もいくつかある。

ロックにとっての成長期だった70年代と、改めてその本質が問われた90年代との狭間で、80年代は、それが巨大ビジネス化しただけの空虚な時代と見做されることも少なくない。が、あの時代があったからこそ今がある、という部分も確実にあるはずなのだ。

そういえば、BURRN!創刊当時はこのカテゴリーを「HR/HM」と記述していたように思うのだけど、いつの間に順序が逆転して「HM/HR」というのが定着しているんですね。そんなことはともかく、あの時代をリアルタイムでロック・ファンとして過ごしてきた方も、奥野さん以上に若い世代にも、是非目を通していただければ幸いだ。ご感想もお待ちしております。

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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。