アムステルダム出張日記【2】

4月25日、僕を乗せたKLMのアムステルダム直行便は、定刻よりもやや遅れたものの無事に成田を出発。幸いなことに、ほぼ満席のフライトだというのに僕の隣席は空いていて、比較的ゆったりと過ごすことができた。

以前こうした移動中はもっぱら読書(もしくは取材対象に関する資料の熟読)で時間をつぶしていたものだが、老眼が進行するにつれてそれもしんどくなり、眼鏡をかけっぱなしで過ごすのも嫌なので、近年はかつて以上に映画を観るようになった。もちろん目が疲れるのは同じことなのだが、そのままうとうとして眠りに落ちることができれば理想的だといえる。

昔と違って機内プログラム自体の内容も豊富だし、視聴可能な映画の本数もすごいから、まずはどれを観ようかと迷うことになるわけだが、こういう時には基本的に「スリルとサスペンス」みたいなのではなく、気楽に観られるものを選ぶようにしている。興奮や緊張を伴うものを観てしまうと、眠気もさめてしまうからだ。そしてまず1本目に選んだのは、日本での公開中にも観ている『ディア―・エヴァン・ハンセン』。物語そのものばかりではなく、それに伴う音楽もお気に入りのミュージカル作品なので、くつろぎながら時間をつぶすにはもってこいだ。観ている途中で機内食が出てきたが、その時に飲んだ白ワインの酔いも手伝って徐々に眠くなってきた。

ところがその次に選んだ映画の途中で、眠気が吹き飛んでしまった。『伝説のロックスター再生計画』という、いかにも増田好みのB級コメディの匂いぷんぷんの作品だ。そのタイトル自体にも、架空のバンドのドキュメンタリーのような体裁がとられていた『スパイナル・タップ』や『スティル・クレイジー』などに通ずる感触がある。主演はジョナ・ヒルとラッセル・ブランド。始まってみると、なかなか突っ込みどころの多い、先の展開が読みやすい物語で、中盤あたりでそろそろ飽き始めてきていた。ところがそこに突如、思いがけない人物が登場してきたのだ。

その人の名は、ラーズ・ウルリッヒ。

なんと彼はラーズ本人として登場し、設定的には「ドラッグや酒に溺れて落ちぶれた問題の多いロックスターの、元妻の現在の交際相手」という立場。その元夫婦間では「あたし、今はラーズと寝てるの」「で、どうなんだ? やつのスティックは」みたいな会話が展開されたりもするし、ラーズにももちろん台詞がある。

あとで調べてみたら、この映画は『寝取られ男のラブ♂バカンス』(2008年)のスピンオフ作品で、アメリカでの公開は2010年。原題は『GET GIM TO THE GREEK』という。このタイトルが意味するのは「やつをグリーク・シアターに連れて行け!」。素行の悪い往年のスターをどうにかして公演開始に間に合うよう、アメリカ東海岸から西海岸に向かって行くというドタバタ劇だ。

正直なところ、その映画自体はどうってことなかったのだが(けっこう笑ったけど)、ラーズのカメオ出演に驚いてすっかり眠気が消えてしまい。僕はその後も2本ほど映画を観続けることになった。そして、日付的には出発日と同じ4月25日、現地時刻の18時少し前にアムステルダムに到着。それ以降の話は、また次回に。

こちらの映画、途中まで日本語吹き替えで観ていたのだが、ラーズの登場以降は英語に切り替えた。お馴染みのあの口調で喋っていた。日本語の喋るラーズはどこか変だった。

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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。