「我が美学、此処に在り」と清春は言った。

大学3年生の頃、六本木でアルバイトを始めた。とはいえ業務内容は雑誌編集。僕は『オリコン・ウィークリー』編集部の“バイト君”だったのだ。当時の時給は、恥ずかしくて言えない。EX THEATER ROPPONGIは、かつてその編集部があったビルのすぐ近くにある。

というわけで5月3日、そのEX THEATERで清春を観た。2018年生まれの名盤のひとつに数えたいアルバム『夜、カルメンの詩集』に伴う全国ツアー、『KIYOHARU TOUR 天使の詩2018〈LYRIC IN SCARLET〉』のファイナル公演である。これが、当然のように素晴らしかった。5月23日発売予定の『MASSIVE Vol.23』にたっぷりと書くことになっているので、この場で詳しい記述をすることは避けておくが、とにかく濃密で官能的で美意識にあふれたひとときだった。

当然のように、と書いたのは今回のツアー中に観てきた仙台、名古屋で両公演が、そして『夜、カルメンの詩集』というアルバム自体が素晴らしかったからでもある。この作品のキーワードのひとつになっているのが〈スパニッシュ〉であり、実際にフラメンコ・ギターなどが取り入れられているばかりではなく歌詞(というよりも彼の場合むしろ単純に、詩と呼びたくなる)の情景にもそうした空気が漂い、作品全体にそうした匂いや色彩がちりばめられている。そして実際、ツアー序盤はそうしたアルバムのテイストを再現することがひとつの主題になっていたはずなのだが、こうしてツアー最終夜まで到達するまでの間にそれは完全に消化され、観ていてもスパニッシュ云々といったことに意識が向かうことはほとんど皆無に等しかった。何よりも強く感じられたのはそうしたテーマ性などではなく、歌、声、言葉から伝わってくる清春という人間の美学そのものだった。

取り急ぎのブログを簡潔にまとめようと思っていたはずなのに、ほとんど原稿のようになりつつあるので今回はこのへんで自分にストップをかけておくことにするが、僕はこのアーティストと出会うことができて本当に良かったと思っている。20年前に会社を辞めた頃、自分がhideの記事を書いた『ロッキンf』の表紙を黒夢が飾っていた頃にはまだ接点すらなかったわけだが、こうして巡りあえたことについては、もう感謝しかない(ありがとうね、東條くん)。

そして清春を軸とする時間の流れは、これからしばらくの間、SADSの側へと傾いていくことになる。当然ながらそこでも、彼は彼なりの美学を貫き、その生きざまを感じさせてくれるはずだ。この10月には50歳になるという彼。そんな彼に、常に正面から向き合える7歳上の自分でありたいと思う。僕も僕なりに、自分の美学を貫きながら。

この夜のみ会場限定販売されたCD「wanderer」。『夜、カルメンの詩集』の世界をより完璧なものにするためのパズルのピースとでもいうべき1曲である。

清春に関する情報はこちら⇒ https://kiyoharu.tokyo/

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50代半ばというよりはアラ還に近付きつつあるライター増田勇一の、音楽的だったりそうでもなかったりする日々。

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