KAATO東京公演を前に、ちょっと回想。

KAATOの生演奏を初めて聴いたのは2017年4月24日、渋谷LUSHでのこと。しかも厳密に言うと、最初に耳にしたのは開場前、リハーサル時の1曲目に彼らが演奏したMOTT THE HOOPLEのカヴァー、“Rock And Roll Queen"だった。このバンドのフロントマンであるカート・ロウニーは当時22歳。自分の息子でも全然おかしくない年齢の彼が、僕が中学生の頃に知った曲を普通に歌っていることに驚かされると同時に、その時に初遭遇した彼らのことが急に身近に感じられるようになったものだ。

その日、リハーサル終了後にはカートに話を聞いた。その際のインタビュー記事はBURRN!誌の2017年7月号にも掲載されているが、廃棄されていた使い古しのレコード・プレイヤーを手に入れた彼に両親がクリスマス・プレゼントとして買い与えたという3枚のLPレコードのラインナップを聞いて、また驚かされた。URIAH HEEPとMOODY BLUES、そしてSTYX。ちなみにSTYXの作品は1981年発表の『PARADISE THEATER』で、彼は特にこのアルバムに夢中になったのだという。これは、20歳になるかならないかの頃、大学生時代の僕がよく聴いていたアルバムのひとつだ。

その後も彼の口からはBABYSの『BROKEN HEART』(こちらは1977年発表の作品)や、AEROSMITHの1stアルバム(こちらに至っては1973年!)が大好きだという話が聞こえてきた。CHEAP TRICKの『at BUDOKAN』(1978年)の話になった際、僕がその年の武道館公演を観ていると告げると「心から嫉妬する」という答えが返ってきたりもした。なんだか20代の若者ではなく、久しぶりに再会した友人と十代の頃を振り返っているかのような感覚だった。そして、実感させられた。こうやって受け継がれていくのがクラシック・ロックというものなのか、と。

実際、カートはそうした音楽的ルーツについて「子供の頃から両親がそっちへと導いてくれた」と認めながら、STYXのアルバムを聴いたことでクラシック・ロックにのめり始めたこと、同じようなものを聴いている友達が学校にひとりもいなかったことを認めつつ「だけども、いまどき(=当時)のどんな音楽よりも素晴らしいと僕には思えた。音楽のオーガニックさ、本物の楽器の音というものを、それによって知ることになったんだ」と語っている。

しかも彼がKAATOで目指しているのは、クラシック・ロックの単なるリヴァイヴァルではない。カートは次のようにも語っていた。

「歴史を焼き直すばかりでは意味もないからね。いわば僕の目的は、クラシック・ロックの再生産みたいなことでもある。60年代や70年代、80年代の音楽の要素をフレッシュなものとして、2010年代の現在に持ち込みたいんだ」

そんな彼の動機に少しも揺らぎがないことを証明しているのが、3月下旬にリリースされた新作『SLAM!』だ。この作品を引っさげての来日公演は去る4月5日から始まっているが、この土日にはいよいよ東京での二夜公演を迎える。果たして彼らの〈2010年代版クラシック・ロック〉はどんなふうに進化を遂げているのか? 実際のライヴ・パフォーマンスを通じてそれを体感できることが、楽しみでならない。

13日(土)と14日(日)の両日、KAATOのライヴは、新宿のZIRCO TOKYOにて、気鋭の国産ロック・バンドたちとともに行なわれる。加えて13日の午後には、同じく新宿のROCK CAFE LOFTで僕が行なう『白昼のクラシック・ロック狂騒会』というイベントにもメンバーたちが顔を出してくれることになった。なんだかいつのまにか完全に告知記事になっているが、とにかく、できるだけたくさんの人たちに今回のライヴの目撃者になって欲しいと思っている。

なお、余談ながらカートはDIR EN GREYのファンでもあり、過去にはサンセットストリップのハウス・オブ・ブルーズでの彼らのライヴに足を運んだこともあるのだという。要するに、その時点で僕は彼と最初の接近遭遇を果たしていたのかもしれない、ということだ。不思議な縁を感じずにいられないこのバンドの今を目撃し、これからを見続けていきたい。


●こちらは本日(12日)アップされたBARKSの記事。

https://www.barks.jp/news/?id=1000166420#utm_source=tw_BARKS_NEWS&utm_medium=social&utm_campaign=tw_auto

●そしてこちらは10日付でrockin' on洋楽ブログにアップされた記事。

https://rockinon.com/blog/yogaku/185374


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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。