3.22、首振りDollsの無観客ライヴを観た!

3月22日(日)の夜、東京・渋谷Rexで首振りDollsを観た。そこで行なわれていたのは無観客状態での生配信ライヴ。そもそも彼らは同20日、21日、22日の3日間にわたり、『首振人形症候群』の再発を記念してのツアーのファイナル公演を同会場で実施することになっていた。ツアーの終着点が3DAYS公演というのもすごいが、各公演には〈インディーズ時代/メジャー・デビュー後/これから〉といったテーマが設けられていた。つまり、この3夜を目撃すればこのバンドの過去・現在をたっぷりと味わい尽くしたうえで未来すらも見えてくる、という流れが組まれていたわけだ。

そして、この3公演の中止が発表されたのが3月11日のこと。その理由については改めて説明するまでもないだろう。なんだか僕自身、コロナ・ウィルス云々とか開催自粛といった言葉を文字にすること自体にもはやウンザリさせられている。ただ、公演中止は残念なことではあるが、逆に予定通り実施するとなればそこには当然のようにリスクが伴うことになる。中止すればバンドは会場のキャンセル料をはじめとする具体的な損失を抱えることになるが、強行すればそれ以上に大きな目に見えないダメージを負う危険性がある。公演実施に踏み切った前例アーティストたちに対する風当たりの強さや、ライヴハウスという場所についての昨今の報じられ方を踏まえれば〈この状況下でライヴハウス公演を行なうようなバンドは非常識だ〉との非難を浴びることになり兼ねないのは誰にでも想像がつく。

万全の対策をもって開催に臨み、結果的にそこから感染が広がることが一切なかったとしても、不思議なもので〈何月何日に予定されていた誰某のライヴは無事に開催され、実施後2週間を経ても感染報告はなかった〉といった事実が報じられることはほとんどない。しかし自称・事情通のコメンテーターたちは、ライヴハウスの実情も知らぬまま否定的な発言を繰り返し、メディアを通じて発信される間違った情報、大袈裟な形容は、まさしく病原菌のようなスピードで無闇に拡散されていく。ひとたび風潮というやつが敵にまわると、事態は悪いほうにばかり転がっていくものだ。そこで予定通り公演を実施しようとすることは、どう考えても得策とは言えないだろう。ただ、そうした状況でありながら、この時点において国は何ひとつ補償を確約してくれていないという信じ難い現実がある。実施すれば責任を問われるのみならず非難を浴び、中止に伴う損失は誰にも穴埋めしてもらえない。どうしてライヴ・エンターテインメントだけがここまで追い詰められなくてはならないのか、と言いたくなるところだ。

このままこの話を続けていても結論や解決策が出てくるわけではないので本題に戻るが、僕自身、首振りDollsの今回の公演中止は賢明な判断だったと思っているし、そこでダメージを負いながらも無観客ライヴの生配信に踏み切ったことにも拍手を送りたい気持ちだった。そして同時に、こうした形態でのライヴがいくつも行なわれているなか、無観客での演奏というのが実のところどんなふうに行なわれているのかがほとんど報じられていないことに疑問を感じていた。確かにその様子は広く配信されていて、ほぼすべての人が無条件で観ることができるわけなのだから、わざわざ言葉や写真で伝えようとする必要はないのかもしれない。が、実際に行なわれたライヴだけではなく、行なわれなかった何かについて記事にすることも我々の仕事の一部なのではないだろうか。そう考えて僕は、この日の無観客ライヴに取材名目で潜入させてもらうことにした。媒体側からのそうした記事の発注は皆無だったから、このブログで紹介するということを前提として。

この夜の首振りDollsの演奏は、午後9時からの約30分間というかなりコンパクトなものではあった。が、そこで彼らは3日間で実践しようとしていたことを凝縮してみせるかのように、彼らのこれまでを象徴する看板曲から初披露となる新曲までをも披露した。しかも限られた時間枠内に1曲でも多く詰め込もうとするのではなく、彼らのライヴならではの空気感を伝えることを優先させていたことが印象的だった。敢えて通常のライヴ通りにジョニー・ダイアモンドのギターとショーン・ホラーショーのベースによるバトル場面なども端折ることなく組み込まれたその演奏プログラムは、ファンにとっては〈短時間のライヴでもここまでやるのが首振りDolls!〉と実感できるものだったはずだし、この機会に初めて彼らのライヴ・パフォーマンスに触れた人たちにとっては、このトリオのライヴ・バンドたる所以を知る切っ掛けになったのではないだろうか。

この日、彼らは昼間のうちから会場入りしていた。ライヴハウスという場所を眠らせることなく、午後からステージを使っての撮影などにも勤しみ、結果的には通常のワンマン公演当日以上に慌ただしい1日を過ごすことになった。そして午後9時の演奏スタートを控えていた頃の彼らの表情には、なんだか普段のライヴの際以上に緊張の色が見て取れた。なにしろフロアには少数精鋭の撮影クルーと必要最小限のスタッフしかいないのだから。しかも単なる映像収録ならばやり直しや編集も可能だが、生配信だからそういうわけにはいかない。ただ、いざステージに立ち、幕が上がれば百戦錬磨のライヴ・バンドはすぐさま本領を発揮する。それからの約30分間は、まさにネガティヴな感情をすべて忘れ、頭のなかを真っ白にして楽しめるひとときとなった。

そして3月25日の夜、無観客ライヴの後半に披露されていた新曲、“リトルサマーベリーオレンジミルク”のミュージック・ビデオと、この楽曲発表に伴うニュー・ヴィジュアル、さらには今後の新たなライヴ情報が公開された。自分たちの歴史の節目となる3DAYS公演は流れてしまったが、新たな領域へと進もうとしている彼らの歩みは、まったく止まってなどいないのだ。ぶっちゃけ、こうした状況だけに、この先のライヴ開催についても不確かさが伴うことは否定できない。ただ、明日があることを信じていなければ、明日はやってこないのだと思う。彼らのこれからの挑戦に、注目し続けていきたい。そして最後になったが、発売中の『MASSIVE Vol.36』に掲載のインタビューも、是非お読みいただければ幸いだ。

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要注目の新曲“リトルサマーベリーオレンジミルク”のMVはこちら。

そして、以下は無観客ライヴ当日にわたくしが中継カメラの後方から撮影した写真たち。少しでも当日のことを妄想するのに役立てば幸いです。


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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。