7月最後の夜、三密を避けながら激人探訪者と密会。

いつかこの人とは会って話をしなければならないな、と前々から思っていた。THOUSAND EYES、UNDEAD CORPORATIONをはじめとする複数の場で活躍するドラマー、YU-TOのことである。もちろん彼の音楽観や演奏家としてのこだわりなどについてあれこれ訊きたかったというのもあるし、それならば普通に取材を申し込めば良いわけなのだが、そういう話をする前に、彼の〈文章を書くこと〉に対するスタンスというか動機といったものについて訊いてみたかったのだ。

ご存知の方も多いはずだが、彼はnoteを使って『激人探訪』と銘打たれたインタビュー記事をコンスタントにアップしていて、その内容が毎回毎回とても興味深いのだ。そこに登場するのは主に彼の身のまわりのミュージシャンたちだが、そこで内輪の四方山話に終始するわけでもなければ、プライヴァシーに踏み込んで何かを暴こうとするのでもなく、いつも心地好い距離感を保ちながら取材対象の人物像が浮き彫りにされていて、結果、「ああ、こういう人だからこそ、こういう音になるんだな」などと頷かされることになるのだ。しかも2万字、3万字超えという長尺の記事になっていることも多いのに、とても読みやすい。特に技巧的な文章というわけでも、凝った文章構成がとられているわけでもなく、むしろ平易な言葉で綴られているのだが、読んでいてテンポ感がとても心地好いのだ。というか、そこでテンポ感なんてところに着目してしまうのは、ある意味、彼がドラマーだという事実に僕が囚われている証拠でもあるのかもしれないが。

そんなYU-TOと、先日、密談をする機会に恵まれた。もちろんいわゆる三密は避けつつ、ビールなど飲みながら。そして、最初の乾杯をする前から自然に話ははずんだが、普段は質問を投げたり会話をコントロールする側にあるはずの自分が、いつのまにか答える側になっていたりもした。そんな事実も、取材者としての彼の優秀さを裏付けていると思う。

彼が『激人探訪』のようなインタビュー連載を始めようと考えた発端などについても話は及んだ。実は、僕がかつて書いたある記事からの影響が少なからずあったことなども改めて知らされ、嬉しさを通り越した光栄さを感じさせられもした。取材すること、書くことのみならず、いわゆる〈インタビューおこし〉のような面倒な作業についても「楽しい」と言う彼は、僕の息子であってもおかしくない年齢だが、考えてみれば僕自身も編集や取材を始めた頃というのは、その下準備から事後の片付けに至るまでのすべてを素直に楽しめていたはずなのだ。そんな若き日の初心を取り戻せた……なんて綺麗ごとは言わずにおくが、気が付けば数万字の長編対談記事になりそうなくらい続いていた会話を通じて、自分のなかに新鮮な何かが漲ってくるような感覚をおぼえたことは間違いない。

この密会はいわゆるインタビューや対談ではなかったため、会話の内容は録音もされていないし(YU-TOが隠し録りしていなければ、の話だが)、その場での具体的なやりとりが記事になることはない。が、次に改めて取材をさせてもらう前に、こうして普通に話をする機会を得ることができて、とても良かったと思っている。

というわけで、〈いつか話をしなければ〉と思っている相手には、〈いつか〉の到来を待つことなく、やっぱりすぐにでも声をかけるべきなのだと改めて感じさせられた7月最後の夜だった。そして、このブログを読んで彼に興味を持った人には、是非、『激人探訪』のページを訪れてみて欲しい。

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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。