53年前の自分が夢中で読んでいた一冊。

ツイッターで、ある書店員さんの「推定5歳児が欲しがった、こども向けではない本を買ってあげた素敵なお爺さん」についての書き込みを読んで、良い話だなあと思った直後に、自分がこどもの頃に読んだ本のことを思い出した。『いたずら小おに』という童話というか児童文学なのだが、この本をむさぼるように何度も繰り返し読んだ記憶がある。

笑いを食べて生きる小鬼が主人公で、大雑把に説明すると、そもそもは泣き虫な子やおこりんぼう、だらしない子などに寄生して、いたずらを仕掛けては笑いを得て肥えていたのだが、ある時たまたまお婆さんを助けることになり、そこで笑顔になれた時から主食とするものが変わり、人を喜ばせることに価値を見出すようになった、というような物語だったはず。調べてみたところ日本での初版が1967年のようだから、1961年生まれの僕はおそらく小学1年生の頃にそれを読んだのだろうと思う。それから何度か引っ越しを繰り返してきたため、どこかのタイミングで処分してしまったのだが、少なくとも高校生ぐらいの頃までは綴じがほどけてボロボロになったその本を持っていたように思う。

べつにこの物語にものすごく感銘を受けたとか、そういうことではなかったのだと思う。ただ、それまで読んでいたような、絵本じゃないけど妙に絵が多くてやけに文字の大きな本とはちょっと違った〈本らしい本〉を初めて手にしたのがその頃だったのだろうし、おそらく母に買い与えられたわけではなく自分で選んだ1冊だったのだと思う。初めて手に入れたレコードと同じような思い入れを、無意識のうちにこの本に対していたというわけだ。

中学時代には読書クラブみたいなのに所属していたことがあって、そこでレポート的な課題が出た時も、この本について書いた記憶がある。確か、こどもの頃には気付かなかった皮肉や風刺、教訓めいたものがこの物語には含まれているのではないか、みたいなもっともらしいことを。でも実際、もしもこの本から学んだことが今の自分の仕事に活かされている部分があるとすれば、人を怒らせたり泣かせたりすることを目的に書くことはしたくない、というところだろう。だから僕は基本的に、絶対に好きになれないことが明らかなものについては書きたくないし、「これは嫌いだ」ということを書くことを生業にはしたくない。笑いを餌にする小鬼に住みつかれないような自分であらねばな、などと、この本との出会いから53年ほどと経て感じさせられた59歳の8月24日だった。

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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。