試聴音源が手元に届いた1月当時からずっとコンスタントに聴き続けている新譜のひとつに、THE PRETTY RECKLESSの『DEATH BY ROCK AND ROLL』がある。女優/モデルとしても知られるテイラー・モムセンがフロントに立つこのバンドのアルバムも、これが4作目となる。ロッカー然とした彼女のたたずまいのカッコよさについては改めて言うまでもないし、従来の作品についても好んで聴いてきたが、今作にはこれまで以上の説得力を感じずにいられない。「カッコいい」とか「サマになっている」とか「意外とうまい」とかではなくて、彼女じゃなければならない何かというのが、従来とは違った次元で強く感じられるのだ。なんだか彼女自身の覚悟というか、肝の据わり方が違う。そんな凄味がある。
実際、前作の『WHO YOU SELLING FOR』(2016年)からここに至るまでの過程の中で、彼女とバンドメイトたちはとんでもない紆余曲折を経てきた。2017年当時、バンドはテイラーにとっての長年の憧れの対象でもあるSOUNDGARDENの全米ツアーにオープニング・アクトとして同行していたが、同年5月、デトロイト公演終了後に同バンドのフロントマンであるクリス・コーネルが滞在先のホテルにて自ら命を絶ってしまった。ツアーは当然ながらそこで終わり、SOUNDGARDENのみならずTHE PRETTY RECKLESSの動きもしばらく停止することになった。
しかもその11ヵ月後には、初期からバンドにとって欠かせない存在であり続けてきたプロデューサー/共作者でマルチ・プレイヤーのケイトー・カンドゥワラがバイク事故により他界。ふたつの死はバンドに深い傷を負わせ、一時は薬物に頼るような状態にまで陥っていたのだという。そんな絶望の底でのさまざまな自問を経て、まさしく地獄から這い上がるようにして作られたのがこの『DEATH BY ROCK AND ROLL』というアルバムなのだ。
しかもこの作品には、SOUNDGARDENのキム・セイル(g)とマット・キャメロン(ds)、さらにはRAGE AGAINST THE MACHINEのトム・モレロ(g:言うまでもなく彼はAUDIOSLAVE時代のクリスの同胞にあたる)もゲスト参加している。こうした事実関係や今作に至るまでのストーリーを踏まえてみると、このアルバムから伝わってくる空気の特別さの正体が見えてくる気がする。もちろんそうした背景や物語性のようなものに過剰反応してしまっては、音楽を純粋に評価することは難しくなってくる。しかし、事前情報なしに聴いた時点でも素晴らしいと思えたこのアルバムが、そうした背景を知ることにより、いっそう味わい深く、思い入れを持てるものになったことも僕には否定できない。
そして、この3月19日には、クリス・コーネルの遺作ということになるカヴァー・アルバム『NO ONE SINGS LIKE YOU ANYMORE』もリリースされる。生前の彼自身のチョイスによるさまざまな楽曲が、まさに他の誰にも真似のできない彼ならではの歌唱により生まれ変わっている。そして思う。『DEATH BY ROCK AND ROLL』におけるテイラーもまた、「誰にもあなたのようには歌えない」という、彼女自身のあり方を示すことに成功したということなのではないか、と。
増田勇一のmassive music life
いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。
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