GUNS N' ROSESの「新曲」登場に想う。

GUNS N' ROSESの新曲がリリースされた。彼らは7月31日、ペンシルヴェニア州ハーシー(そう、あのチョコレートで有名なハーシーです)での公演を皮切りに新たな北米スタジアム・ツアーを開始していて、これは要するにツアー開幕に合わせて新曲が配信されたよ、というごくありふれたニュースでしかないのだが、話の主人公がGUNS N' ROSESだから事件になる。

今回リリースされたのは“Absurd”という楽曲。正式表記はKORNのロゴみたいに”r”の文字が裏返しになる模様。そしてこの曲はそもそも”Silkworms”と呼ばれ、一時はライヴでも演奏されていたもの。世間で「出る出る詐欺」といわれ続けたあげく2008年にリリースされた『CHINESE DEMOCRACY』に収録されるものとみられていながら、ずっと正式リリースされずにきた楽曲だ。今回のツアー初日のハーシーでは演奏されていないが、2本目のボストン公演では披露されている。どうやらライヴで演奏されたのは2001年以来ということになるようだ。

2001年のGUNS N' ROSESは、1月1日の未明からラスヴェガスのハウス・オブ・ブルーズでライヴを行ない、同14日にはリオデジャネイロでの『ROCK IN RIO』に出演し、同年末にはふたたびラスヴェガス公演(12月29日、31日、ハードロック・ホテル内にあるザ・ジョイントにて)を実施している。僕はその年、幸運にもその4公演を現地で観ているのだが、改めて調べてみるとそのすべてのステージで“Silkworms”は演奏されている。つまり20年前に4度もライヴで聴いているというわけだ。なのにそこまで強く印象に残っていなかったのは「わっ、新曲!」という驚きを超えるものがこの楽曲自体に感じられず、正直なところ、リフの激しさやある種のけたたましさは憶えていても、メロディなどがくっきりと印象に残るタイプの曲ではなかったからだろうと思う。

こうして改めて“Absurd”という新たな名前で生まれ変わった同楽曲を聴いてみても「ついに出たか!」という感慨めいたものはあっても、「これぞ彼らの新たな代表曲になるに違いない!」というほどの興奮はない。実際、音源自体も完全に真新しいものはないようで、ドラムは当時のメンバーであるブレインが叩いていた音源がそのまま使われているようだし、ヴォーカル・トラックも当時のままなのかもしれない。ギターとベースについてはおそらくスラッシュとダフによる演奏に差し替えられているのだろうけども。

ただ、そこで僕は「なんだよ、新曲じゃないじゃん!」と文句を付けたいわけではない。この楽曲がどうのこうのという前に、GUNS N' ROSESがツアー再開にあたり何かをリリースするようなバンドになったという事実を喜んでいるのだ。そしてもうひとつ嬉しいのは、彼らの新曲リリースを生まれて初めてリアルタイムで体験できる世代がいる、ということだ。

ついでに言うと、今回のリリースに合わせて公開された映像もまったく僕の好みではない。何度も繰り返し聴いているが、歌えるようになる気配も今のところない。ただ、2021年は“Absurd”が出た年、という記憶は確実に残るのだろうなと思う。たとえば1999年を“Oh My God”が出た年として認識してきたのと同じように。

誤解して欲しくないのだけども、僕は“Absurd”という曲が嫌いなわけではない。がっかりさせられたわけでもない。現在のGUNS N' ROSESが単体の新曲としてリリースするなら、これまでの代表曲と印象の重なる馴染みやすい曲よりも、こうした「80年代と同じことをしようとしてるわけじゃないんだぜ」と言いたげな曲であってくれるほうが嬉しい気もするし、この感触には、それこそ“Oh My God”を初めて聴いた時に感じた「アップデートされた焦燥感」みたいな手触りにも通ずるところがある。そして結局はやはり、この曲がライヴで演奏されるのを観てみたくなるし、かねてから噂されている現ラインナップでのオリジナル新作発表が待ち遠しくなってくるのだ。

ちなみに‟Absurd”というタイトルには「不条理な」「馬鹿馬鹿しい」といった意味合いに加え「片腹痛い」といったニュアンスもあるようだ。この楽曲登場が今後の時間の流れの中でどんな意味を持つことになるのか、楽しみにしていたい。



3コメント

  • 1000 / 1000

  • mxlbose

    2021.08.09 13:47

    ロッピンさんおひさしぶり。コメントありがとう。「スラッシュとダフが弾くことでGN’Rの曲になる」という言葉は、もしも今のアクセルにインタビューできたなら聞こえてきそうな言葉だなと思います。そしてこれは僕個人の勝手な解釈ですが、自分ひとりで看板を掲げていた当時の曲作りにおけるテーマはある意味「クラシック・ロック化することへの抵抗」だったのではないか、と。成熟に対する拒絶と言ってもいいのかもしれません。こんなふうに考えれば考えるほど、直接話を聞いてみたくなりますね。逆に言うと、話を聞けないからこそ妄想を働かせることができるわけですが。
  • チームイズミ

    2021.08.09 02:50

    @チームイズミあ、ロッピンより、でした笑
  • チームイズミ

    2021.08.09 02:49

    '96年にスラッシュがバンドを脱退して以降、アクセルは新作(Chinese Democracy)に向けてのセッションにおいてスラッシュとはタイプの違うギタリストの音を模索していくというファンの想定をある意味裏切る形で歴代ギタリストによるスラッシュに寄せたプレイを聞かせてきました。図らずもそうなったのか、歴代ギタリスト達がGN'Rとはこうあるべきと考えたのか分かりませんが、もしアクセルの理想とする楽曲にはスラッシュのギターが不可欠と考えているのなら、2016年から繋がったリユニオンの意味って物凄く大きな意味があるし、ストックする多くの曲にスラッシュとダフが手を加えていく事を現在のアクセルは任せられるようになったと考えてみると、'94年以前と2016年以降のGN'Rは何ら変わっていない、結束の強いバンドなんだと嬉しくて泣きたい気持ちになってしまいます。これが "ABSURD" を聞いた僕の感想でした。ライブにおいては昔の曲と今の曲、全然タイプが違いますけどスラッシュのギターが入る事でGN'Rになるという点はやっぱり大きいですよね。

増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。