水中の、おひとりさま会議室。

ほとんど幽霊会員になりつつあったスポーツクラブのプールにまた通い始めている。とはいえゆっくり時間をかけて800メートルほど泳いで、サウナでたっぷり汗をかいてくる程度のことではあるのだが。しかも僕はもっぱら平泳ぎ専門。クロールはなんだか忙しいし、バタフライではうまく泳げないし、そもそも泳ぎがうまくなりたくて通い始めたわけでもない。

切っ掛けは、ぎっくり腰だった。かれこれ10年以上前のことだと思う。「水泳は全身運動だし、いいですよ~」と医者から勧められたのだ。で、泳ぎ始めてみて、確かにこれは走るよりも良さそうだと思えたのは、まわりの景色がほぼ一定であるということ。街を走っていればいろいろなものが目に飛び込んでくるし、あれこれ気を付けなければならないが、泳いでいるときに注意すべきは同じコースの人にぶつからないようにすることくらい。だから集中もできるし、逆に、考えごとをするのにも適している。実際、泳ぎながら原稿の書き出しを思いつくこともあるし、サウナでぼーっとしながらインタビューの質問を考えたり、次のMASSIVEの掲載ラインナップを練ってみたりすることもある。今日もひとつ、悪くなさそうなアイデアが水中で閃いた。

たいがい夕方の同じ時間帯に泳ぎに行くので、そこで顔を合わせる人の顔ぶれもほぼ同じ。とはいえあまり言葉を交わしたりはしないのだが、ある日、演歌の大御所系風貌をした初老の男性に「あなたもこのへんで店やってるの?」と訊かれたことがあった。その方は、僕の財布では足繁く通うことが叶わないような和食系のお店のご主人。どうやら僕を居酒屋の店主か何かだと思っていたようだ。音楽関係の仕事をしていると告げると、「ああそう」というご主人の顔には〈とてもそうは見えないけども〉と書かれてあった。ま、それはともかく、この土日は『WARPED TOUR JP.』なので泳ぎには行けそうにないが、また来週以降もプールに泳ぎに、いや、あれこれ考えに行こうと思う。

ガラス越しに撮影したわけではなく、館内に掲示されていた写真を撮ったものです。


1コメント

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  • チームイズミ

    2018.04.02 13:39

    増田さんのオフの一コマいいですね。オフな瞬間も緩すぎない文面で描かれているところ、読みやすくて引き込まれます。その昔、某メタル専門誌!元編集長が仕事の合間にレコード屋へ寄って今日はコレを購入した、等の話が大好きでした。仕事中だろ?みたいな(笑)毎回楽しみに読ませて頂いてます。これからもゆるりと続けて下さいませ。

増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。