不愉快な出来事があっても感動は消えず。

先日、午前中から渋谷で『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。劇場での鑑賞はこれで3回目。もちろんその前に試写でも観ているわけだが、そのたびに新しい発見があるとまでは言わないけども、何かしらの”気付き”があったり、やっぱりいつものところで勝手に涙が溢れてきたりする。やはりすごい映画だ。きっと、まだもう何回か通うことになるのだろうな。

映画はたいがいひとりで観ているのだが、今回は妻とふたりで。こういう機会が訪れるのはせいぜい数年に一度。ふたりで呑みに行くことはときどきあっても、昼間の街を一緒に歩く機会というのも滅多にない。そこで映画鑑賞後、せっかくだから外で昼食をとろうという話になり、飲食店がいくつも入ったビル内にあるイタリアン・レストランに入った。ちょうどランチタイムということもあって店内はわりと賑わっていたが、運良くすぐにテーブル席に通され、ふたりとも〈本日のパスタランチ〉みたいなもののなかから同じものを選んで注文した。同じものを頼んだほうが多分早いよね、なんてことを言いながら。少し経つと隣の席にはサラリーマン5人組が入ってきてバラバラなものを注文していた。

ランチにはサラダバーがついているというので、まずはサラダを。ところがそれを食べ終えてしばらく経ってもなかなか肝心のパスタがやってこない。オーダーを聞いてから茹で始めているにしてもちょっと時間がかかりすぎだよな……と思っているとウェイターが近づいてきたのだが、彼が抱えたふたつのパスタ皿は、隣のテーブルへ。間違いなくこちらが注文したのと同じものだ。「えっ?」という感じではあったが、「それ、こっちのじゃないですか?」という言葉は呑み込んだ。「きっとまとめて4皿ぶん作ったのだろうし、単純に持ってくる順番を間違えただけだろうから、こっちにもすぐ来るはず」と思っていたからね。

ところがその直後、同じウェイターが今度はそのパスタをひとつだけ持ってきて、ちらりと伝票を確認しながら「もうひとつすぐにお持ちしますので」と言う。ちなみにそのときに「すみません」の一言は無し。だが、その時点ではまだ、彼が口にした「すぐに」という言葉を信じていた。

ひとつだけ届いたパスタを間に挟み、妻は「私、もうちょっとサラダ食べるから、先に食べてて」と言う。僕は麺類を食べるのが特に速いのでちょっと嫌だったのだが、仕方なくゆっくりと食べ始めた。しかし「すぐに」という約束は守られることなく、もう一皿のパスタが届けられる気配がない。さきほどのウェイターのほうを見ていたら、一度は視線が合ったのだがすぐに目を逸らされた。そして僕のパスタがもう残り2口ぐらいになった頃、妻が「それを食べ終えたら帰ろう。私、食べたくなくなっちゃった」と言う。すると面白いもので、例のウェイターがふたたび現れ、彼女の前に皿を差し出したのは、僕が自分のパスタを間食した直後だった。

「お待たせしました」

彼は確かにそうは言ったが、詫びの言葉は皆無だった。妻は「いえ、もう結構ですから」答える。うろたえるウェイター。「同じものを頼んで、どうしてこういうことになるんです?しかも後から来た隣のテーブルよりも遅いというのはどういうこと?」と僕が尋ねると、彼は「パスタはソースの違いによりできあがる順序が異なる場合があります。隣の方はオリーブオイルソースのパスタでしたので」とよどみなく言う。

この店のランチのパスタは3種類あった。そして隣りのテーブルの5人組のうち何人かは実際、オリーブオイルソースのパスタを食べていたようだ。が、そのうち2人は間違いなく僕らが注文したのと同じトマトソースのものを食べていた。「いえ、お隣も同じものを頼まれていましたよ」と告げると、それでもウェイターは「いえ、あちらは……」と言いかけたが、どうやら隣のテーブルにトマトソースで汚れた食後の皿があるのが目に入ったようで、続けるべき言葉を失っていた。

そして僕たちが席を立とうとすると「飲み物はどうするんですか?」と尋ねてきた。確かに食後の飲み物も頼んではいた。が、僕らはパスタが食べたくないわけではなくこの店が嫌になったわけで、そんなもの要るはずもない。僕らの意志が固いことに気付くと彼は、今度は伝票を片手に「あ、1,000円で大丈夫です」と言ってきた。1人前の料金だけでいいし飲み物代は不要、という意味だ。でも「大丈夫」ってどういうこと? もちろん「お代は結構です」と言わせたかったわけじゃないし、「責任者を呼べ」と言うつもりもなかった。何か余計な言葉を発する気力も失うほど、腹が立った。「ソースが違うから」などとテキトーな言い逃れをしながら謝罪をしようとしなかったそのウェイターにも、会計をしている間にこちらをチラチラ見るばかりで何も言おうとしない他の従業員にも。

そもそも僕らふたりと隣のテーブルだけで、同じパスタの注文が4皿入っていたのに、3皿分しかオーダーが通っていなかったわけだ。しかも伝票をチラ見した時点で、こちらの注文が先だったことにも気づいていたはず。なのに彼は謝罪の言葉を一切口になかった。帰り際、僕は「このお店ではミスをしても謝らないんですか?」と聞いたが、答えはなかった。おそらく彼にはミスをしたという自覚もないのだろう。

あとから思ったのは、パスタが一皿だけ持ってこられた時に「ふたつ同時に持ってきてください。そうでないなら要りません」と言うべきだったかな、ということ。ただ、あの時点ではただ単に順番を間違えただけなのだろうと思っていたし、「すぐに」という言葉を疑っていなかったのだ。まさかそれから10分以上待たされることになるとは思ってもみなかった。

というわけで、こうして『ボヘミアン・ラプソディ』の感想を語り合いながらの楽しい時間になるはずだったこの日のランチは、ちょっと嫌なムードで終わった。パスタの味は悪くなかったけども、あの店にはもう二度と行く気がしない。ただ、また夫婦で映画を観には行こうとは思う。ちなみに同日の帰宅以降、我が家でその店のことが話題になることは一切ないが、QUEENとあの映画に関する会話は止まることがない。妻は今、僕が読み終えた『フレディ・マーキュリーと私』を読んでいる。


1コメント

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  • チームイズミ

    2018.12.01 08:05

    今日のブログを読んで苛立ちが伝染しながらも最後にはほっこりさせて貰え、気が付くとうっすら涙目になってしまう辺り、いつものボスの手腕です!感動しました。

増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。