ZOOM取材と、47年ぶりに来日するANGELの話。

コロナ禍以降、一気に増えたのがZOOMを介しての取材の機会。当初はあくまで非常事態ならではの代替手段だと思っていたが、そのまますっかり定着している。もちろん対面取材にまさるものはないはずだし、実際に面と向かっていてこそ気付かされることというのもあるわけだが、たとえば取材を受けるアーティスト側に立てば、レコード会社やマネージメントのオフィスにわざわざ赴くことも、マネージャーが自宅まで迎えに行くことも不要になるし、スマホひとつで出先での取材にも対応しやすくなる。同時にこちらサイドとしても「ツアー中なのでこの時期の取材は無理です」とか「前の日の戻りが遅いんで難しいですね」みたいな理由で取材要請を断られるケースが減り、ありがたいかぎりだ。

しかもなかにはZOOMの時のほうが積極的に喋ってくれる人たちもいる。自室で、まわりに誰もいない状況のほうが話しやすいという人だって当然いるはずだ。なかには自宅の様子を見られたくないという人もいるだろうが、背景をぼかすことも背景用の画像を使うことも可能だし、動画をオフにして音声のみの対応にすることもできる。それこそイメージ重視傾向のあるアーティストの場合などは「素顔で普段着の自分を見られたくない」というのもあるだろうし、それが動画で保存されるのを避けたいという気持ちが働いたとしても当然だろう。確かに先方が音声のみの対応である場合は「こちらは姿をさらしながら、顔の見えない相手に画面を通じて話しかける」という形になってしまうし「だったら電話インタビューでいいじゃないか」ということにもなるわけだが、そこで通話料金がかからないZOOMのほうが選ばれるのは当然といえば当然だろう。

さて、前置きがえらく長くなったが、これまで行なってきたZOOM取材の中でもとても印象深かったのが、昨年6月に行なったANGELのパンキー・メドウスとのインタビューだ。これは同バンドの現時点での最新アルバム『ONCE UPON A TIME』のリリースに伴うもので、記事自体はBURRN!誌の同年8月号、9月号に掲載されている。どうして2号連続での掲載になったかといえば、パンキー自身が同作に関することばかりではなく、さまざまな過去の出来事についても包み隠さずたっぷりと語ってくれたからに他ならない。

どうしてその取材がそんなにも印象深かったのかといえば、PCの画面を挟んでこちらの質問に答えてくれるパンキーが、完全にパンキーの姿をしていたからだ。「どういうこと?」と思われるかもしれないが、実はこの取材、当初は「先方は音声のみでの対応」と伝えられていたのだ。昔から白で統一されたステージ・コスチュームで知られてきたANGELはヴィジュアル・イメージを重んじるバンドであるはずだし、今やパンキーも70代。日常の姿が取材者側にダイレクトに伝わることを避けたいと考えたとしてもそれは当然だろうし、むしろ僕は彼が姿を見せないつもりであることにプロ意識の高さを感じていた。だからこちらも取材当日は、音声だけが聞こえてくることになるのだと想定しながらアクセスを待っていたのだが、彼はいきなり動画で現れたのだ。しかも、あまりにもパンキー・メドウス然とした姿で。

その時の動画はいまも僕のPC内に保管されているが、改めて見てみても、彼の姿がパッと画面に映し出された瞬間、自分が少しばかり慌てているのがよくわかる。もちろんステージ衣装を着ていたわけではないが、彼はきちんと髪の毛をセットし、適度にメイクもしていて、そのままフォトセッションが始まっても対応できそうな服装で現れたのだ。しかも背景についても気が遣われていて、生活感のようなものがまったく伝わってこない画になっていた。そんな大人のロックスターならではのプロフェッショナリズムにも感銘を受けたが、彼が今現在のことだけではなく、過去のこともたっぷりと語ってくれたこと、都市伝説めいた逸話の裏付けとなるようなことを自らの口から明かしてくれたことにも興奮をおぼえた。なにしろジーン・シモンズからKISSに誘われていたこと、AEROSMITHに加入する可能性があったことまで語ってくれたのだから。

そんなパンキー率いる現在形のANGELが、ついに来週、47年ぶりに日本上陸を果たす。当時からのメンバーはパンキーとフランク・ディミノ(vo)の2人だけだが、近年の楽曲ばかりではなく往年の代表曲の数々も惜しみなく披露してくれるはずだ。ぶっちゃけ、かつてANGELが好きだったという人たちの中には日常的に新譜リリースや来日公演の情報をチェックしていない人も多いはずだし、今回の公演が行なわれるということ自体が、本来この情報を必要としているはずの人たちに届き切っていないようにも思う。僕も取材時などに「この人は絶対にあの頃、ANGELを聴いていたはず」とおぼしき国内ミュージシャンたちにこの事実を伝えたり公演告知フライヤーを手渡ししたりしているのだが、そのたびに「知らなかった! ANGELってまだ続いてたの?」という言葉が返ってくる。情報が行き届かぬために観るべき人が観られないというのはとても悲しいことだし、その人たちにあとで悔しい想いをして欲しくない。というわけで、是非身のまわりにいる「かつてANGELを好きだったかもしれない人たち」にこの事実を伝えて欲しい。そしてできることならあなた自身にも、会場に足を運んでみて欲しい。

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増田勇一のmassive music life

いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。