7月18日から3泊5日でロサンゼルスに行ってきた。目的は19日、20日にザ・フォーラムで開催されたQUEEN+Adam Lambert(以下Q+AL)の公演を観ること。両公演とも贔屓目抜きに素晴らしかったのだが、その公演内容については然るべきタイミングに然るべき場でたっぷりと書く予定なので、この場では具体的には触れずにおきたい。
今回の二夜公演が行なわれたザ・フォーラムがあるのは、ロサンゼルス国際空港から近いイングルウッド地区。海外旅行サイトやガイドブックなどには「旅行者が足を踏み入れるべきではないエリア」のひとつに挙げられていることが少なくない地域だ。僕自身、過去にも2回ほどこの会場でライヴを観ているし、イングルウッドのホテルに一泊したこともあった。ただ、その時は、地図で見るとザ・フォーラムまで徒歩圏内だと思えたものの実際に歩いてみると40分ほどかかってしまい、深夜に人通りのない一本道を一人でとぼとぼと歩く羽目に。実際に危険な目に遭うことはなかったが、いつ何が起きてもおかしくない怖さがあったことは否定できない。。少なくとも一人旅でこの界隈に泊まることは今後控えよう、などとその時には思ったものだ。
なのに今回ふたたびイングルウッドに宿泊することにしたのは、渡航目的がザ・フォーラムでのQ+AL二夜公演観覧以外にはなかったからだ。結果的には19日の昼間、まだ今の時点では明かすことのできない取材がひとつ入ったのだが、ダウンタウンやハリウッドに行かねばならない理由はなかったし、車を運転しない僕の場合、どこに行くにもバスかタクシー、UBERを使わなければならなくなる。場所によっては地下鉄が便利だったりもするのだが、あいにくザ・フォーラム近辺には駅がない。ならば会場から徒歩圏内にホテルを見つけるのがいちばん都合がいい。よく探してみれば、以前泊った徒歩40分のホテル以外にも選択肢があるかもしれない。
そして結果、某旅行検索サイトで見つけたのが、ザ・フォーラムまで徒歩約15分というホテルだった。ホテルというか、いわゆるモーテルだ。料金は1泊100ドルちょっと。同サイトでのレーティングは、さほど良くはないが悪くもない。ただ、現地利用者によるレビューというか口コミのなかに「ザ・フォーラムに誰々を観に行くために泊まった。そのために利用するなら最適なホテルだ」的な書き込みを複数見つけたことがひとつの決め手になった。とはいえ、そうした書き込みの後にはやっぱりたいがい「それ以外、泊まるべき理由は何もない。界隈の治安は良くない」といった文面が続いていたのだが。
しかし実際のところ、このホテルでの滞在は悪くなかった。まず、空港からタクシーで10分ほどで到着するというアクセスの良さ。渋滞を味わう前に着いてしまう。で、着いてみると立派なエントランスホールみたいなものはなく、オフィスの窓口は無人。そこで呼び鈴みたいなのを押すと、奥からプエルトリコ系30代前半くらいと思われる男性が出てきて対応してくれた。ちなみにその窓口は防犯ガラスで隔てられている。チェックインはすんなり済んだし、「喫煙可のツインで予約が入っているけど、禁煙のダブルも空いてる。どちらがいい?」と持ち掛けてくれ、僕は後者の部屋を選ぶことができた。煙草の匂いは大丈夫だが、それ以外の何かの匂いが染み付いている可能性もある。そんな部屋は避けたいところだ。
部屋はなかなかの広さ。建物は古いけども清掃は行き届いているようで、清潔感があった。バスルームのアメニティは石鹸とシャンプーのみ。しかしタオルは充分にあるし、部屋にはテレビと冷蔵庫だけではなく電子レンジも設置されている。ということはつまり、スーパーで冷凍食品を調達できれば部屋で食事可能だということ。これは車無しの一人旅にはありがたい。しかも徒歩5分圏内にマクドナルドとカールス・ジュニア、スターバックスとフライドチキン屋、さらには酒屋もある。
それから僕は同ホテルに3泊することになったが、WiFiも問題なかったし、朝食などは付いていないものの、朝はコーヒーとジュースの無料サービスもあり、なかなか快適だった。僕以外にもQUEEN+AL公演目的の宿泊者が何組かいたようだ。ただ、ホテル自体は過ごしやすかったが、やはり安全な地域とはいえないし、誰にでもお薦めできるというものではない。現地に住む知人は「この界隈を歩く勇気はないし、できればバスにも乗りたくない。停留所でバス待ってる人、いないですよね?」と言う。確かにそうだった。何分後に来るかわからないバスを人気のないところで待ち続けていたら、悪目立ちするかもしれない。
知人の口からは「流れ弾に当たって死にたくない」という言葉も聞こえてきた。そう、治安が悪いというのは、そういうことなのだ。自分が狙われたわけじゃなくても、そういうことは確かに起こり兼ねない。もちろんそれは、どんな地域だろうと起こり得ることではある。ただ、その確率が、ここでは少し高いかもしれない。実際に何が起きていたのかは知る由もないが、滞在中、昼夜を問わず、パトカーのサイレンの音を何度も耳にしたのも事実だ。
結果的には、何の問題もない旅ではあった。しかし何かが起きてからでは遅い。さて、もしもまたザ・フォーラムでライヴを観るためだけにロサンゼルスを訪れる機会があったらどうするべきだろうか? ダウンタウンあたりに泊まって、UBERでも使ったほうがいいだろうか? 実は現在、ザ・フォーラムの隣りでは巨大なスタジアムの建設工事が進められていて、こちらが2020年の夏あたりには開業するのだという。NFLのチャージャーズ、ラムズのホームとなるこのスタジアムは、どうやら2022年のスーパーボウル開催会場になるらしいとの話も。ということは、この界隈も観光客向けに一気にクリーンになるのかもしれない。確かに街のいたるところでさまざまな工事が進められている。ただ、そうなってくると当然のように地価も上がり、家賃も高騰し、地元の人たちの生活にも影響が出るのだろうし、ホテルの値段もこれまでと同じというわけにはいかなくなるのかもしれない。
来年度版の旅行ガイドでも、イングルウッドは依然として「おすすめできないエリア」として紹介されているのだろうか? 3年後は、5年後はどうなっているのだろうか? そうやって考えてみると、イングルウッドがイングルウッドであるうちに滞在する機会が得らえたことにも、なんだか価値があるような気がしてきた。次回のことは、次回考えよう。
ホテルの外観はこんな感じ。まさにアメリカの“ザ・どこにでもある風景”。
部屋は意外と広い。念のため持参した長袖シャツは結局不要だった。
電子レンジがあるということは、冷凍食品が食べられるということ。というわけで、ライヴからの帰路途中にあったセブンイレブンで冷凍ラザニアを調達。
ホテルの隣りにあったフライドチキン屋でランチを調達。揚げたてであること以外に、あまり魅力はなかったが。
ホテルを出ると、こんな感じ。すぐそこにはスタジアム工事現場が、その向こうにはザ・フオーラムも見える。
建設中のスタジアム。とにかくデカい。これがイングルウッドの新たなシンボルになるのだろう。
そして肝心の、ザ・フォーラム。空飛ぶ円盤のようでも、パンケーキのようでもあるこの会場が、この二夜ばかりは王冠のように見えた。
増田勇一のmassive music life
いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。
0コメント