少し前にツイッターで、FAITH NO MOREのマイク・パットンの〈毛髪燃焼事件〉についてちょいと触れたところ、「さすがパットン!」「やはりホンモノは違う!」「意味がよくわからない」といった反応をいただいた。当時の記事が掲載されているBURRN!のバックナンバーを発掘することができたので、インタビュー中のやり取りを少し紹介しておこうと思う。
それは1991年10月のこと。FAITH NO MOREが初来日し、東京での二夜公演を実施。その翌日にあたる10月4日、彼らの滞在先(今はもうない六本木プリンスホテル)にて、マイク・パットンとジム・マーティンのふたりを取材したのだった。からかい半分の受け答えも多く、明らかにこちらを困惑させようとしていることがうかがえる回答もあったが、僕としては、限られた時間枠内で少しでも多く話を拾おうと必死だった。以下、その際の質疑応答の一部である。
ーーマイクのその髪型には何か理由があるんですか?
マイク:ふざけたのさ。他のメンバーたちが俺のことをあんまり好きじゃなくなってきてるって聞いたから、気に入ってもらえるように、と思ったんだ。
ジム:マイクが髪を切るだろうってことは、彼の目を見ればわかった。
マイク:というか、切ったんじゃなくて燃やしたんだ。
ーーまさか。そんなの信じられませんよ。
ジム:本当なんだ。こいつ、自殺しようとしたんだ。ホテルの部屋の浴槽にあれこれ詰め込んで火をつけ、頭を突っ込んだら髪が燃えたってわけさ(笑)。
マイク:俺は火傷の跡を残したかったんだ。次のアルバム用の新しい顔にするためにね。
ジム:ホンモノの芸術のためってわけだ。
マイク:アートのためなら、俺はどんなことも厭わない。
ーーあの、今の話、誌面に書いちゃっていいんですか?
ジム:もちろんだよ。だってそれがキミの仕事だろ?
ーーまあそうですけど、本当は、なんでそんなことに?
マイク:退屈してたんだよ。
ジム:ツアー中の洗濯物が溜まって洗面所に持って行ったまでは良かったんだけど、あまりにも汚いもんだからアタマにきて、それを全部浴槽に突っ込んで、液体燃料を注ぎ込んで……それで火がボーッてことになったわけ。
マイク:これが話題になればレコード・セールスにも拍車がかかるだろうし、いい宣伝になるんじゃないかと思ったんだ。だけど結局は髪がなくなっただけ。今じゃレコード業界の笑いものさ。
ジム:お陰でこいつは今、これまで以上にみんなに嫌われてる。
本当に、どこまで信じていいのかわからない話ばかりのインタビューだった。ちなみに「あなた方の音楽をどんな言葉で呼ぶべきなんでしょうか?」という質問に対し、マイクはラップ・メタル、ジムはメタル・ラップと回答したので、「ああ、これはおちょくってやがるな」と思いながら敢えてクソ真面目に「両者にはどのような違いがあるんでしょうか?」と尋ねると、マイクは次のように答えている。
「料理の手順と同じで、材料を入れる順番が違うんだ。それから、世界のどこに居るかによっても違う。ある場所ではいちばん大切なことを最初に言う。つまり、俺はラップがいちばん大切だと思っていて、ジムはメタルを最重要視してるんだ。それゆえに俺たちはいつも議論になるんだ」
口から出まかせのようでいて、ちゃんと意味のある回答になっている不思議。正直なところ日々の取材がこんなインタビューばかりになると辛いものがあるが、ときどきこういう機会も欲しくなる。ちなみに当時、記事の編集担当だった同僚の平野記者からは「このバンドの、こーゆーのが読みたかったんですよ」という感想が。取材終了時、「これ、ちゃんとした記事にできるのかな?」という不安に苛まれていた僕は、その一言に救われたのだった。
▲それまで長髪だったマイクがいきなり短髪になったばかりではなく、前髪が完全になくて頭頂部が逆モヒカン、もしくはUFO着陸時かゴルフ場のバンカーのようになっている。
▲掲載号はこちら。1991年12月号。忘れられない表紙。
増田勇一のmassive music life
いつのまにか還暦を過ぎてしまった音楽系モノカキの、 あまりにも音楽的だったり、案外そうでもなかったりする 日々。
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